自分が手に取ろうと思ったCDを同時に別の人が取ろうとして、手が触れあってお互いに「あっ…」みたいなラブストーリーは突然にな事件

一度だけ遭遇したことがある。

忘れもしない大学生の時の、暑い夏の日、俺は市立の中央図書館に来ていた。

暑い日の図書館というのは最高だ。
空調は完璧だし、死ぬほど本があるから暇つぶしには事欠かない。
そんな中、俺はまずCDコーナーに向かうことにした。
府中市の図書館というのは、最新アルバムに関しては100%借りられていて、何十人という順番を待たなければ借りられないような状態だったのだが、ちょっと昔のCDに関しては、わりと借りる人が少なく、予約せずにスムーズに借りられるので、旧作をメインに攻めていたところだったのだ。

その日のお目当てはミッシェルポルナレフ。
JOJOにポルナレフが出ていたのと、スピッツがシェリーに口づけのカバーをしていたのと、Flashアニメでシェリーに口づけを使っていたのが流行っていたので、もう借りてちゃんと聞くしか選択肢がない!と思い、熱い直射日光の中、自転車をこいで中央図書館まで来たのだった。
さすがに夏休みは人が多いが、そのほとんどは週刊誌コーナーなどに集まっている。
CDを借りようという人は、あまりいなかったようだった。
階段を上って3階まで行くと、狭い個人レンタルレコード店のような光景が広がる。
ポルナレフ以外にも目的のCDはあるが、とりあえずはポルナレフだ。

最初「ミ」で探していたが、外国人ミュージシャンの場合は「ポ」の方に並んでいるらしくて、「ポ」の方を見に行く。(これはいつも間違える)
あった、「シェリーに口づけ」だ。
目的物を捕捉した俺はハンターのごとく右手の人差し指をCDの上部に引っかける。
と同時に、自分のものではない手が同じくポルナレフの「シェリーに口づけ」にタッチしているではないか。
こいつは、上からフックして取るタイプではなくて、左右のCDをずらして隙間を作り、親指と人差し指でつまんで引っ張るタイプだ。

と、そこまで分析して、ふと相手の顔を見る。

普通の好青年だった。

確かに僕は期待していた。
CDショップで同じCDに手を伸ばす男女。
本屋で同じ本に手を伸ばす男女。

フィクションの中ではいつもそうだった。

しかし冷静に考えれば、あらゆる事象がバッティングするとき、相手の性別の確率はおおよそ50%が女であるが、おおよそ50%が男であるのだ。
僕は1/2なら悪い方向を引くタイプだ。
バターを塗ったトーストを落としたときは、ほとんどの場合、バターを塗った面が下に落ちるタイプだ。

となれば、同じ瞬間にCDを手に取るという奇跡に出会う相手は、もちろん男だったのだ。

ちなみにバッティングしたその後のことは全く覚えていない。
お互いに譲り合った記憶はあるのだが、結局どちらが借りたかも覚えていない。
僕がその後ミシェルポルナレフのシェリーに口づけを聞いたのかも覚えていない。

ただ、現実で奇跡は起こるが、その奇跡というのは案外残酷なものだという記憶だけははっきり残っている。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です